英IHS Markitのテクノロジー調査部ディレクターである南川明氏が、2018年12月12日~14日にかけて東京ビッグサイトにて開催された「SEMICON Japan 2018」のマーケットセミナーにおいて、車載半導体を中心に変貌する半導体産業の最新動向について講演を行なった。

米中貿易摩擦は日本に商機

南川氏は、半導体産業の置かれた状況から話を始め、2018年第4四半期時点での業界の懸念点と今後の見通しを語った。まず、多くの人の関心事である米中貿易摩擦については「激しさを増しているが、米国、日本、台湾には有利な展開になるだろう」との見解を示した。「中国国内で消費される半導体需要の多くはIntel、Qualcomm、NVIDIAはじめ米系半導体メーカーからの輸入に依存している。中国は、財政赤字が今後深刻化する見通しで、半導体自給率向上といった経済政策にも大きく影響する可能性が高い」とするほか、「米国の中国向け輸出制限によって、中国は今後、日本・台湾・欧州などのメーカーから調達することになるだろう。中国が技術的にキャッチアップするのには時間がかかるため、日本や台湾などの半導体関連メーカーにとってはチャンスとなるだろう」と、米国以外のメーカーにとっての商機が訪れる可能性が高いことを説明した。

半導体市場は2019年後半に回復

また半導体市場の現状、とりわけメモリ市場が弱含みとなっている原因について同氏は、「世界のデータを寡占的に握る巨大IT企業群であるGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazonの4社)はデータセンター投資を抑制している。2019年後半は第5世代(5G)移動通信システムへの投資が本格化し、400Gbps伝送可能なハイスペックなデータセンターを建設する必要があることから今は投資タイミングを待っている状態にある」としたうえで、「このようにデータセンターへの投資が減速しており、売れ行き不振のiPhoneの生産調整で2019年半ばまで、NANDは生産調整が必要となるが、後半より5G向け400Gbps伝送能力のあるデータセンターの登場と4Kコンテンツの増加、および季節的な繁忙期に向かうため、NAND市場は回復するだろう」との希望的観測を述べた。

これに関連するNANDの設備投資については、「Samsung Electronicsや東芝/Western Digitalは、計画の見直しを行っており、NANDの設備投資はしばらく凍結され、年後半の需給バランスの回復を待つことになるだろう」と、一時的な停滞はあるものの、2019年内に回復するであろうとの見方を示唆した。

このほかの懸念点として、南川氏は以下のような事柄を取り上げている。

  • 足元の中国製造工場への自動化投資は急減速だが2020年からIoT政策で再び再開する見込みである
  • 仮想通貨の下落でマイニング用サーバは低迷し、そのためのASIC製造も調整段階にある
  • 半導体のプロセス微細化のスピードは鈍化傾向にあり、かつ設備投資は巨額化しているため、先端半導体を採用する顧客が減少している。今後は微細化よりも、低消費電力技術が開発の中心になる。大電力を消費するデータセンターの省エネルギー化は急務であり、低消費電力なデバイスへの期待は大きい。今後、AIチップ、パワーデバイス、エナジーハーベストなどの成長が期待される

エレクトロニクス産業の主役は車載と産業用機器へ

エレクトロニクス産業の市場規模と用途別売上高比率の2001年~2025年までの推移を踏まえ南川氏は、「これまでエレクトロニクス産業をけん引してきたPC、携帯電話(スマホ)、テレビは成長が止まり、代わりに産業機器、車載が2010年頃から拡大し始めた。IoTの主戦場である産業機器分野の成長が顕著である。半導体のけん引役がPCやスマホから車載、産業機器にシフトしてきたことによる半導体への影響はすでに始まっている。これとは別に低消費電力化への要求が急速に高まっておりエッジコンピュータ、クラウドにおける低消費電力の必要性はますます高くなっている」と述べた。

  • エレクトロニクス産業の売上高と用途別内訳比率の推移

    エレクトロニクス産業の売上高と用途別内訳比率の推移 (出所:IHS Markit)

さらに、これに伴い、半導体産業にも変化が起きているともし、「これまでのけん引役だったPC、携帯電話、テレビなどはメモリ、マイクロ(MPU/MCU)ロジックICで構成されていた。これらのデジタルICは300mmウェハを使って製造されてきたが、一方の車載や産業向けでは、アナログIC、パワーデバイス、オプトエレクトロニクス、センサの割合が高く、これらの製造には主に200mmウェハが用いられている」と述べ、200mmの需要が増す可能性を示唆。ただし、シリコンウェハの需給バランスについては、「大手シリコン結晶メーカーは200mmウェハの増強投資には慎重で、中小企業のみ生産拡大計画があるため、2020年までは不足感が続くだろう。これに対して、300mmウェハは信越化学工業、SUMCOともに拡張投資を行い19年には10%ほど増産され、需給バランスが整う見通し」と述べた。

欧州勢はEVからマイルドHVに開発資源をシフト

IHSでは、中国の電気自動車(EV)推進政策はあるものの、世界的にはマイルドハイブリッド(HV)が大きく成長し、EVの販売が全世界の新車販売に占める割合は2030年でも1割程度と低く予測しているという。

「EV自体は走行中に二酸化炭素(CO2)や窒素酸化物(NOx)を出さないが、中国では電力の大半を石炭火力に依拠しており、発電段階でCO2を大量に排出している。自動車メーカーも、発電を含めた全体でのCO2削減効果を検討する動きがあり、EVの普及は期待よりも低く、欧州完成車メーカーもEVからマイルドHVに開発資源をシフトしている」とする一方で、「EVでもHEVでも半導体消費に大きな違いはないが自動運転は半導体消費に大きく影響してくる」とし、ガソリン車に搭載される半導体は220ドル相当、EVは400ドル、HVは480ドルに対してレベル3の自動運転車は800ドルと急増するとの見方を示した。

なお、2016~2022年の車載半導体成長率は年平均7.1%とIHS Markitでは予測している。車載MCUの統合は着実に進んでいるがセンサの組み合せは多様性を増しそうであるという。

  • 用途別車載半導体売上高

    用途別車載半導体売上高(棒グラフ、左軸)とクルマ一台当たりの搭載電装品価格の推移(折れ線グラフ、右軸) (出所:IHS Markit)

半導体と電子部品の融合で日系企業が優位に

最後に、南川氏は「IoT機器に使われるセンサネットワークデバイスでは、電子部品と半導体をともに小さなモジュールに搭載している。日本はミネベアミツミ、日本電産などアクチュエーターメーカーが強く、モーターの中に電子部品や半導体を埋め込むなど、センサ部品と半導体が融合しながら新しい製品を仕上げていくことで強みを発揮できるだろう。電子部品のさらなる小型化と性能改善のためには、半導体製造技術の1つである薄膜の製造技術が必要になる。半導体と電子部品のメーカーが協力関係を築くことで日系企業の優位性を発揮すべきだと提言して、話を結んだ。