米Salesforce.comは9月25日より4日間、米サンフランシスコで年次イベント「Dreamforce 2018」を開催している。25日夕方の基調講演では共同創業者兼CEO、Marc Benioff氏が登場し、幹部とともに「Einstein Voice」「Customer 360」などを発表した。AI「Einstein」と音声認識により、CRMはさらに便利になるという。

  • Salesforce.comの共同創業者兼共同CEO、Marc Benioff氏

  • メイン会場はサンフランシスコ市内にあるモスコー二センター。付近一帯でテーマ別に様々なセッションが開かれている

IT業界最大のイベントが幕を開けた。今年は83カ国から17万人を超す登録があるなど、過去最大の規模となった。

Benioff氏は例年通り、顧客、パートナーへの謝辞に続き、Salesforce.comの慈善事業について語った。同社は今年、慈善事業向けのプラットフォームを発表したほか、ベイエリアの教育、ホームレス問題に取り組む団体に合計1800万ドルを寄付することも発表している。

Salesforceが近年力を入れている学習サービス「Trailhead」については、受講者(Trailblazer)が1000万人に到達しているほか、特定の段階まで達成した人が得られるバッジの発行数が2017年は500万だったところ、1000万と2年未満で倍増した。Benioff氏はSalesforce経済圏を調べたIDCの調査を引用し、「2022年には330万の雇用、1兆ドルの経済効果がある」とその規模を語る。4人に1人のTrailbrazerが新しい仕事を得られるという予想もあるという。

その経済圏をさらに加速するのが、Dreamforceの前日に発表されたAppleとの提携だ。AppleとSalesforce.comは、SalesforceのモバイルアプリをXcodeとSwift向けに最適化、容易にiOSアプリを構築できるSDKの提供の2点で提携、TrailheadではiOSアプリ開発コースを新設するという。なお、AppleはiOSでSAPとも2016年に提携している。

続いて、共同創業者兼CTOのParker Harris氏が登場し、新機能やサービスを発表した。

  • Salesforce.comの共同創業者兼CTO、Parker Harris氏

AIについては、2016年に発表した「Einstein」と音声認識インタフェースを組み合わせた「Einstein Voice」を発表した。デモでは、営業担当者がSiriに向かって「今日のブリーフィングを」と語りかけると、SiriがSalesforceシステム上の顧客とのミーティングなどを読み上げる。

  • Salesforceのモバイルアプリに音声入力機能が加わり、それをさらにEinsteinで分析する。画面上は音声入力、画面下はSalesforceシステムに対する更新(金額、クロージングの日など)を提案している

  • Siriに語りかけると、Salesforceシステムにあるその日のスケジュールを読み上げた

ミーティングの後のメモも音声で行う。Salesforceのモバイルアプリが搭載する最新のLightning UIで「Einstein Voice」ボタンを導入、これを押して商談の報告、次のミーティングのスケジュールが次の金曜日になった頃、予定クロージング日の変更、金額の変更などを伝え、「Einsteinで分析する」ボタンを押すと、適切な変更を行うことができる。

デモを披露したSalesforce.comの主席モバイルアーキテクト、Qingqing Liu氏は、「開発にあたって、実際の営業担当がどのような作業をしているのかを調べたところ、簡単に見える入力作業でも多くの手間がかかっていることがわかった」「音声認識は便利だが、Einsteinにより次のレベルになる」と話す。

Einstein VoiceはWinter'19リリースでパイロットとして提供される。日本語を含む英語以外の言語については、これからの作業となるようだ。

Harris氏自身が披露したのは、「Customer 360」だ。3月に65億ドルで買収することを発表したMuleSoftの技術が土台となっており、Salesforce内にあるクラウド、Salesforce外のERP、POSなどのシステムとの連携を簡単に行うことができる。

例えば、ある顧客がSalesforceのCommerce Cloudでアイテムを購入直後に購入を変更しようとカスタマーサービスとチャットをしても、Service Cloudと連携していなければ、この顧客が直前に何を買ったのかがわからず、文脈に応じた会話ができない。Customer 360では接続したいシステムをポイントしてクリックすれば連携できる。Salesforce外部のシステムとの接続では、「MuleSoft Anypoint Platform」を利用してAPIを使った接続ができる。

  • MuleSoft Anypoint Exchangeから、接続したいシステムを選ぶ

連携するシステムが増えれば顧客データベースの数は増える。だが、その中には重複した顧客もいる。そこで「Customer 360 ID」として、名前、電話番号、ソーシャルメディアのハンドル名、メールアドレスなどをベースに顧客のマッチングを行う機能も用意する。「単一のカスタマービューという考え方は新しくはない。だが、Salesforceがどのように簡単に実現するのかは新しい」とSalesforceは述べている。

  • Customer 360 IDではルールに基づいたマッチングで重複する顧客を識別する機能がある

Customer 360は同社のCustomer Success Platformの機能として提供される。現在パイロットで、一般提供は2019年の予定。