ビジネスに生かせるAI(人工知能)の基礎知識について解説する本連載。第5回からは、AI導入を成功させる前準備について説明していく。今回は、AIを導入するにあたって重要となる「データの整備」を取り上げる。

工業時代の商品開発は、経営者や企画部門のアイデアをもとに技術者が開発・製品化し、販売員が消費者に販売するという流れだった。しかしIT時代の今日では、消費者、技術者、販売者、企画者が、商品の企画・製造・販売というプロセスに関わり、詳細な消費者ニーズを商品開発に生かせる企業こそがライバルを出し抜けるようになり、デジタルマーケティングの比重が高まっている。

こうした消費者の動向をきめ細かくかつ素早く把握できるのが、機械学習やディープラーニングを実装したAIだ。しかし、AIはデータがないと真価を発揮できない。しかも、データは多ければ多いほど正確な判断が可能になることから、AIにはビッグデータが必須と考えている人が多いかもしれない。確かにビッグデータがあれば理想だが、自社でビッグデータを持っている企業は限られている。ビッグデータを持っていない中小企業はAIを活用できないのだろうか。

もちろん、そんなことはない。販売管理やCRMなどの業務システムがあれば、自社にビッグデータがなくても、オープンなビッグデータや他社のビッグデータと連携してAIを使えるのだ。しかし、販売管理システムやCRMといったシステムは、担当者や担当部門が異なっている上にサイロ化していることが多く、相互に連携している企業は少ないのが実情だ。

自社のデータを整備せずに、流行だからという理由でAIを導入しても、成果を得ることはできない。ITの担当者や担当部門は今までの仕事に加えて新たなタスクをこなさなければならないため、AI活用に消極的になり期待通りの効果を得ることは難しい。AI導入で効果を上げるには、その前準備として、少なくとも以下のようなデータ活用の4つのポイントを押さえておく必要がある。

  1. データ活用によって何を達成したいのか?
  2. どんなデータが必要なのか?
  3. そのデータをどのように集めるのか?
  4. 誰がデータ活用をリードするのか?
  • データ連係している様子

(1)データ活用によって何を達成したいのか?

AI導入ありきではなく、どんな目的でデータを活用したいのかが明確ではないと、効果は出ない。例えば、「データを活用して売上を増やしたい」あるいは「データ活用で顧客満足度を上げたい」といった目的を明確にしなければ、どんなデータが必要なのかわからない。さらに、目的設定はトップダウンでもボトムアップでもいいが、全員が共有しなければ納得して必要なタスクを実行することは難しい。

(2)どんなデータが必要なのか?

市場競争で優位に立つには、優れた顧客体験を把握することが最優先課題の1つであり、また、顧客体験を向上させるには彼らをよりよく理解するためのインサイトが必要となる。企業が顧客をより深く理解できる唯一の現実的な方法は、顧客の記録と取引データを分析し、それぞれの好みや一般的なトレンドに関するインサイトを得ることだ。それに関連するデータが必要となる。

(3)そのデータどのように集めるのか?

「インサイトを得るためのデータは社内にあるのか」「データ連携すれば、必要なデータを得ることができるのか」「得られないとすればどのように入手したらいいのか」を検討しなければならない。

通常、既存の販売管理システムやCRMから顧客体験のインサイトを得ることはできないため、担当者や部門間の連携やデータのタグ付けなどが不可欠となる。外部から入手したデータとの連携も必要だ。そうしたタスクを余分な仕事と考えず、目的達成のための重要なタスクであるという意識改革が求められる。

(4)誰がデータ活用をリードするのか?

最後に、誰がデータ活用をリードするのかが問題となる。本来であれば、CDO(Chief Data Officer:最高データ責任者)が必要となるところだ。日本ではまだなじみのない言葉だが、CDOはAI、IoT、デジタルマーケティング、ビッグデータなどを有用に活用し、優れた顧客体験を迅速に把握するために、デジタル戦略を統括し組織を横断して改革を推進する。CDOがいなければ、CIO(最高情報責任者)などが、その役割を果たさなければならない。

著者プロフィール

松崎 亮


Appier Japan株式会社
Director, Enterprise Sales

2004年 コロラド大学ジャーナリズム&マスコミュニケーション学部卒。総合広告代理店の営業を経て、2011年グーグルジャパン入社。SMB を顧客とする第二広告営業本部の初期メンバーとして同本部の成長と組織作りに貢献。
その後、グーグルが買収したダブルクリックの日本の初期メンバーとして参画。DoubleClick Bid Manager (DSP) の拡販、DoubleClick Campaign Manager (第三者配信、DoubleClick Search (SEMツール、Google Analytics を含めたグーグルのアドテクソリューション営業に従事。
2017年に Appier Japan に入社。同社の人工知能をベースとしたオーディエンス予測分析プラットフォーム「Aixon(アイソン)」の日本営業統括責任者。