Appleは6月4日 (米国時間)、開発者向け会議「WWDC18」の基調講演において、iOS向けの拡張現実(AR)プラットホーム「ARKit」の最新版「ARKit 2」を発表し、開発者向けにベータ版を配布開始した。
ARKitは、iOSアプリ内からiOSデバイスの周辺環境と、デジタルオブジェクトやデジタル環境を融合してAR体験を生み出すためのフレームワークだ。一見何の変哲も無いテーブルの上をiOSデバイスのカメラを通じて見ると、実物と見紛うばかりの3Dオブジェクトが置かれており、それを仮想空間上で自由に配置したり、加工/破壊することすらできる、というのがAR(拡張現実)だが、これを実現するために高速で精度の高いモーショントラッキング、レベル(水平)推定、環境光推定、スケール推定などを可能にし、実際の描写や物理シミュレーションはUnity、Unreal Engine、SceneKitといった3Dエンジンをサポートする。
ARKitはiOS 11と同時に登場し、iOS 11でARKit 1.5にアップデートし、垂直面を認識できるようになるなど、着実に強化を続けてきた。ARKit 2ではこれに加え、顔認識の精度向上、より現実的なレンダリングのサポート、3Dオブジェクトの認識、AR体験の共有といった機能が追加されるが、最も大きなものとして、さまざまなDCCツール間での共通フォーマットとなる「USDZ」フォーマットのサポートが追加される。
USDZは米ピクサーアニメーションが開発したオープンソースの3Dライブラリ「Universal Scene Description(USD)」をベースに、Appleとピクサーが共同で開発したフォーマット。ストリーミングや共有を前提とした設計で、ファイルサイズも小さく、オープンなフォーマットとして仕様も公開されている。
USDZはAdobe Systems、Alegorithmic、PTC、TURBOSQUID、Autodesk、Sketchfab、Quixelといった3Dコンテンツの制作ツールを開発する企業によりサポートが表明されており、ARコンテンツ用フォーマットのデファクトスタンダードとしての立ち位置がかなり期待される。
ARKitでのUSDZサポートにより、さまざまなアプリ内でARを利用する際、オブジェクトのデータが共通化されることで処理の手間が省けるとともに、AR内で利用できるオブジェクトの種類も多種多様なものの登場が期待できる。基調講演ではガイドブック内から鯉の3Dオブジェクトが泳ぐ姿を様々な方向から眺めたり、通販サイトのカタログをARで実際に部屋に置いた時にどのようなサイズと見栄えになるかを視認するといったデモを見せていたが、こうしたデータに汎用性が生まれれば、誰もが気軽にARを試せるようになるだろう。
ARKit 2を使ったアプリとしては、iOS 12に付属する「メジャー」アプリのデモが行われた。これはiPhoneのカメラで撮影したものの角と角を指定するだけで、サイズを測ってくれるアプリで、ARKitの登場とともにサードパーティ製の同様のアプリが多数登場していたものをApple流に作り上げたものと見られる。デモを見る限りでは処理速度も高速で、精度もかなり高いと思われる。
また、実際のレゴで作成した建物をスキャンし、周囲にバーチャルなレゴを配置したり、実際のレゴもバーチャルなレゴと置換して、内部を透過してみせたり、火災などを発生させてみせるといった高度な遊びのデモも披露された。ARによってボードゲームやブロック遊びなどはこれまでとは別次元の遊びに進化すると思わせるに十分なプレゼンテーションだった。
AR技術自体はAndoridやWindowsプラットフォームでも開発が進んでいるが、ハードウェアの性能がかなり必要なこともあり、高性能で統一されているiOSが事実上、世界最大のプラットフォームとなっている(ARKitの利用はiOS 11以上でApple A9プロセッサ以上を搭載したハードウェアが必要)。USDZのサポートなどもあり、このままARKitが事実上の標準となる可能性も高い。ARをきっかけとしたiOSの勢力拡大も期待されるところだ。