ここ数年、バズワードとなっているIoT。これまで見えてこなかった課題や気づき、改善点など、恩恵を授かっている企業は多いのではないだろか。今回、自社所有の自動車にテレマティクスシステムを取り付け、ガソリン使用量の削減に取り組んだキヤノンシステムアンドサポート(キヤノンS&S)の事例を紹介する。

エコ運転・安全運転の推進に特効薬がない!

同社は、キヤノングループで製造する機器やソリューション、他社製システム機器類のコンサルティングセールスとオフィスのネットワーク構築・サービス・サポートを手がけている。営業・サービス拠点は全国に約200拠点、所有自動車台数は2800台と、日常業務において自動車を利用する機会が多くある。

2014年時点で、同社の年間ガソリン使用量は3089kl(原油換算:2758kl)、額としては5億円にのぼる。課題としては、ガソリンの使用量に加え、事故・違反を削減することだった。

これらの課題に対し、年2回のマナー運転キャンペーンの実施、安全運転週報(2004年~現在まで発行中)の発行など、社内向けの啓発活動による社員の安全運転意識の向上、軽自動車への切り替えをはじめとした地道な活動を実施していた。

  • 実際に発行されている週報

    実際に発行されている週報

「雑巾を絞るようにガソリン使用量の削減に取り組んだが、大きな成果を得るような特効薬にはならないという悩みがあった。これは、運転のクセは短期間で直すことが難しいという側面があるからだ。やさしい運転や事故の撲滅を啓発するのではく、目的を達成するためには何を減らせばよいのかを具体的に指導する、というアプローチで取り組むことにした」と、語るのはキヤノンシステムアンドサポート 企画本部 CSR推進部 部長の内田智啓氏だ。

  • キヤノンシステムアンドサポート 企画本部 CSR推進部 部長の内田智啓氏

    キヤノンシステムアンドサポート 企画本部 CSR推進部 部長の内田智啓氏

  • 地道な活動を続けるも削減率はわずかなものだった

    地道な活動を続けるも削減率はわずかなものだった

一番の目的は社員の安全確保であり、安全運転をするためには「スピードを出さない」「急加速をしない」「急ブレーキを踏まない」、この3つのアクションを減少させていけば安全運転となり、結果として社員の安全が高まるとともに事故も減少する、と考えたという。

  • 可視化、プロセス目標を設定することで課題解決を図ることにした

    可視化、プロセス目標を設定することで課題解決を図ることにした

車両に通信モジュールを取り付けて管理

そこで、同社は安全面では危険挙動データ、環境面ではアイドリングデータ、ガバナンス・コンプライアンス面では車両運行データを可視化することで、安全運転、アイドリングの減少、運転日報作成の自動化を図ることを狙い、2014年10月に所有自動車2800台にテレマティクスを導入した。

内田氏は「従来、ドライバーの意識向上を図るためにドライブレコーダーやデジタルタコグラフなどが活用されていたものの、ドライブレコーダーは映像の確認に手間がかかるため意識向上につながらないなどの問題があった」と指摘する。

その点、テレマティクスシステムは危険運転を検知して管理者に通知し、イベント発生時の前後合わせて数秒間の動画をクラウドに保存できるほか、運行ルートの記録、運転日報の自動生成などを可能としている。

テレマティクスシステムのスキームとしては、所有自動車にGPSを搭載した通信モジュールを取り付け、運転速度や位置情報、燃料情報(一部車両除く)、時間情報など使用情報をシステムサーバに送信する。

通信モジュールで取得した急加速、急減速、速度超過、アイドリング、燃費(一部車両)、車両情報をはじめ、閾(しきい)値を設定したデータを閲覧し、急加速や急減速、速度超過などの異常値を検知した際に上長や安全運転管理者にリアルタイムに危険挙動警告メールを配信。メールを受信した上長や安全運転管理者は、異常値を繰り返すドライバーに指導する、という流れだ。

  • テレマティクスシステムの概要

    テレマティクスシステムの概要

キヤノンシステムアンドサポート 総務人事本部 総務部 総務第一課の桜井雅之氏は「上長からドライバーに指導する際は、頭ごなしに注意喚起を促すのではなく、どちらかと言うと心配しているんだ、という感じで声掛けすることを意識させた」と、監視目的ではなく、エコ運転・安全運転を目的としていることをドライバーに伝えるようにしたという。

  • キヤノンシステムアンドサポート 総務人事本部 総務部 総務第一課の桜井雅之氏

    キヤノンシステムアンドサポート 総務人事本部 総務部 総務第一課の桜井雅之氏

これにより、運行状況を可視化し、エコ運転を励行したことに加え、車両の稼働率データを分析・活用することで、余剰車両の減車、軽自動車への切り替えなどを促進した。

  • テレマティクス活用の概要
  • テレマティクス活用の概要
  • テレマティクス活用の概要