米Microsoftが3月29日に、2014年以来となる大規模な組織再編を発表した。CEOのSatya Nadella氏が社員に送ったメッセージを公表した形の発表だったが、それを読んで私は自分の目を疑った。そうとはっきりと書かれていないものの、これまでずっとMicrosoftという企業の中心にあり続けてきたWindowsが降格している。

前回の再編はNadella氏がCEOに就任してから打ち出した「モバイルファースト、クラウドファースト」戦略に沿ったものだった。そして今回は、モバイルやクラウドが普遍化したことを踏まえてMicrosoftが新たな戦略として新たに打ち出した「インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジ」に向けた再編である。

そうした戦略の大きな転換があっても、これまでMicrosoftの事業編成はWindowsを軸に組まれてきた。ところが、新しい組織では従来のWindows and Devices Group (WDG)のようにWindowsがコア事業になっていない。Ben Thompson氏によると、Microsoftがパソコン向けOSの事業グループをコアとしないのは1980年以来のことになる。そして、もう1つ。新しい組織では4つのチームがWindows開発に関わるが、それらを率いるのはいずれもコーポレートバイスプレジデントだ。つまり、シニア・レベルのエグゼクティブが直接Windowsチームを率いていない。

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元Microsoftのエバンジェリストで現在はGoogleに在籍するTim Sneath氏が、Microsoftの組織再編に関して書いた「From Windows to the Cloud」の中で次のように述べている。

「Microsoftで17年間を過ごした私のような人にしたら、特等席に座らない製品にWindowsが格下げされるのは信じがたい出来事だ。IBMという名前が実際の事業を現さなくなったのと同じように、"Microsoft"という名前 (マイクロコンピュータ+ソフトウエア)も企業のミッションとの関連性がなくなった。Microsoftはクラウドサービスのバックエンドに軸足を置いた"Cloudserv"企業になり、驚くべきことに彼らにとってWindowsはノン-コア事業なのだ」

私はNadella氏のメールの内容をまとめた記事のタイトルに「Microsoftが大型組織再編、Windowsから"クラウドとAI"、”体験”重視に」と付けた。だが、それで丈夫なのか、本当に迷った。もしかしたら、新たな組織が始動し始めるタイミングで、Windowsチームのリーダーがシニアバイスプレジデントに昇格するんじゃないだろうか……そう疑ってしまうほど、私のようなPC世代にとって、Windowsの格下げは簡単には受け入れられないことだ。

でも、メッセージの最後にNadella氏が「我々の取り組みから大きなインパクトを生み出すには、我々自身がコンウェイの法則を超えなければならない」と書いているのを読んで思い直した。「コンウェイの法則」は、組織の構造が設計に反映されるというシステム開発に関する経験則の1つである。「インテリジェントクラウドとインテリジェントエッジ」による大きな変化を起こすなら、まずはMicrosoftという組織が、それが反映されるような組織にならなければならない。

組織構成をもっと具体的に紹介すると、Cloud and Enterprise Groupを率いてきたScott Guthrie氏が統括する「Cloud + AI Platform」と、Office 365の開発チームを率いるRajesh Jha氏が統括する「Experiences & Devices」の2つが新たな組織のコアとなる。トップの顔ぶれで判断するなら、今日のMicrosoftの事業コアはAzureとOffice 365である。

そしてWindowsチームは、「Experiences & Devices」傘下にクライアント向けの「Windows」部門が組み込まれ、そしてWindowsプラットフォーム・チームが「Cloud + AI Platform」でAzure部門を率いるJason Zander氏のチームに組み込まれる。前者は、モバイルやWindowsの体験に関してよくキーノートに登場しているJoe Belfiore氏が率い、後者はHarv Bhela氏、Henry Sanders氏、Michael Fortin氏らが率いるチームで構成される。

Microsoftはプロダクティビティとプラットフォームの企業

Nadella氏がCEOに就任する前に、Microsoftは「デバイスとサービスの企業」へと変わろうとした。2013年に同社はNokiaの買収を発表、翌年に買収を完了させている。しかし、2014年にCEOに就任したNadella氏は、2014年度の始まりに社員に送った所信表明メールの中で次のように述べている。

「”モバイルファースト、クラウドファースト”の世界におけるMicrosoftの本質は”プロダクティビティとプラットフォーム”の企業である。世界中の全ての個人と組織がより多く、そしてたくさんの目標を達成できるようにプロダクティビティを改革していく」

今回の組織再編は「プロダクティビティとプラットフォーム」の延長といえる。「Experiences & Devices」はエンドユーザーのプロダクティビティを引き上げ、そして「Cloud + AI Platform」はこれからのプラットフォーム構築に取り組む。

売り上げを比べたらWindowsは今もMicrosoftの稼ぎ頭であり、そしても最も価値のあるブランドである。しかし、今や将来の成長ドライバーではない。今回の再編は、Appleが「Apple Computer」から「Apple」に社名を変えて、ポストPCに踏み出した時に似ている。Nadella氏はCEOに就任してから、収益や株価といった成果を着実に出しながらポストWindows時代のMicrosoftを作り上げてきた。Windowsの格下げで、Microsoft株が急落しないのが、Nadella氏が積み上げてきたことの価値を示している。

そして、Microsoftがコンウェイの法則を超える影響はエコシステム全般に及ぶ。Sneath氏は次のように指摘している。

「クライアントからシフトしても、ビジネス戦略としてWindowsはしっかりと機能する。しかし、企業とその文化にとって大転換と呼べるものだ。あなたがMicrosoftのエコシステム・パートナーなら、そこから学ぶべきことははっきりしている。(Microsoftが) Windowsをコア事業としなくなったのと同じように、クラウドにフォーカスしなければ、あなたは戦略的パートナーではなくなる」

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