1958(昭和33)年2月24日は、日本のヒーロー番組の元祖として知られる『月光仮面』の放送が始まった日である。それからちょうど60年が経過した2018年2月24日、『月光仮面』のスペシャルイベントが神奈川県横浜市のシネマノヴェチェントにて行われた。同イベントには月光仮面の愛車も登場するとの情報を事前に入手した筆者は、同車両をひと目見るべく現場へ向かった。

  • 疾風のように現れて、疾風のように去って行く。月光仮面は誰でしょう

本田宗一郎氏がデザインした神社仏閣スタイル

『月光仮面』は、日本初のフィルム製作による国産連続テレビ映画であり、日本のヒーロー番組の元祖でもある。宣弘社が制作し、KRテレビ(現・TBSテレビ)にて放送、川内康範さんが原作・脚本を担当したことでも知られている。

  • オートバイを駆り、二丁拳銃を武器に悪と戦う月光仮面

同作品における時代劇と探偵活劇の要素を組み合わせた作風は、その後続々と登場するヒーロー番組にも多大なる影響を与えた。また、月光仮面は“バイクに乗ったヒーロー”のパイオニアでもある。今回訪れたイベントに登場したバイクこそが、まさにその月光仮面の相棒である1台というわけだ。

  • 「ホンダ ドリーム C70」にセルスターターを採用した「ホンダ ドリーム C71」

若者のバイク離れが叫ばれて久しく、「仮面ライダー」でさえもバイクに乗らないタイプが登場してきたこの時代に、同車両はなんと現役で走り続けているという。実はこの1台、月光仮面をこよなく愛す、とあるファンの所有物なのである。

  • 信号待ちでよく声をかけられるというのも納得の円熟した風貌

会場にて同車両のオーナーであるT.Kさんを発見し、話を伺うことに。同氏は根っからの『月光仮面』ファンであるとともに、なにやら大のバイク好きでもあるとのこと。4,5年ほど前に58年式のこの1台を購入し、隅々まで手を加えこの状態に仕上げたそうだ。

  • CB72へとつながる意匠

同モデル最大の特徴として、“神社仏閣スタイル”とも呼ばれる独特なフォルムが挙げられる。このデザインの発案は、かの本田宗一郎氏であるとも言われているのだ。

  • タンク側面のエッジは、仏像の眉から鼻にかけてのラインが元ネタとの説も

当時、日本製バイクが欧米メーカーの影響を強く受けている中で、ホンダは日本的な独自性を追求していた。そんな折、休暇を取った本田氏は奈良や京都を10日間ほど巡り、その中で日本の伝統的な構造美をバイクのフレームに取り入れることを閃いたのだそう。

  • 『月光仮面』の映像を繰り返し見て再現度を高めたというディテール

そうして開発されたこのモデルが世に出たのと時期を同じくして、『月光仮面』の制作がスタート。白馬のごとく白く塗り上げた当時最先端のバイクにまたがり颯爽と現れる正義の味方は、日本のヒーローものの歴史に大きな足跡を残したのだ。

  • このマフラーも見つけるのに相当苦労したという

同車両は購入当初アップマフラーが装着されていたそうだが、ダウンマフラーを探し出し付け替えるなど、随所にオーナーの『月光仮面』愛が感じられる仕上がりとなっている。しつこいようだが、観賞用ではなく実際に走るという点が最も驚くべきところだ。

  • 月光仮面の正体だと噂された私立探偵・祝十郎も会場へ駆けつけた

イベント当日は、同作の主人公・祝十郎を演じた大瀬康一さんも登場。会場では同シリーズのエピソードを複数上映したのち、大瀬さんのトークショーやサイン会が開かれ、最後には月光仮面の愛車と大瀬さんとの記念撮影が行われる場面も。同車両のオーナーも、これには思わず興奮の表情を浮かべていた。

  • この車体をここまで綺麗に保つのは至難の業。端々からその熱意が伝わってくる

余談ではあるが、東映が制作した映画版『月光仮面』では、和製ハーレー・ダビッドソンこと「陸王」が用いられていたという点もなかなか興味深い。同作品に限らず、乗り物好きの人は今一度懐かしのヒーローものを改めて振り返ってみることで、新たな発見や楽しみが見出せるかもしれない。