デジタル技術の発展に伴い、地図情報はいまや、私たちの日々の生活に欠かせない基盤となっています。カーナビゲーション システムやスマートフォンなど、さまざまなシーンで活用される地図情報。ADAS( Advanced Driver Assistance System: 先進運転支援システム) への社会的注目が集まる中、地図情報は自動運転を支援するコア テクノロジーとしてもますます重要度を高めています。そのリーディング カンパニーとして、株式会社ゼンリンではあらゆるプラットフォームへ向けて地図コンテンツを提供しています。
同社の事業の根幹にあるのは、道路標識や方面看板など、地図に関連するさまざまな情報を空間データ化した「時空間データベース」、そしてこれの源となる「計測データ」です。全方位カメラを搭載した専用車両によって日々収集される計測データの容量は、実に数ペタバイトにも達します。 株式会社ゼンリンでは従来、この計測データのバックアップにスケールアウト型 NAS を使用。そこでは高い信頼性と拡張性が担保される一方、増え続けるコスト、リプレースやインフラ増設等に伴う工数負荷が課題化していました。
同社ではこのバックアップ サイトとして、クラウドの活用を検討します。事業の根幹を支えるシステムながら、プラットフォームの高い信頼性を評価して Microsoft Azure の採用を決定。その結果、4 年間で 3 割ものコスト削減効果を生み出しました。

導入の背景とねらい:ペタバイト級のデータをオンプレミスでバックアップし続けることには限界があった

サービスやシステムの安定稼働を、いかにして最適なコストと工数で実現するか。これは、多くの企業の IT 部門に共通した命題だといえます。クラウド サービスはこの命題を実現する手段として 古くからその優位性が提唱されてきましたが、過去に IT 基盤のクラウド化を検討し、そしてこれを見送った経験を持つ企業は決して少なくないでしょう。

この背景には、サービスのプラットフォームやネットワークなどの技術が未成熟で実用に耐えない、先進的なものよりも「成熟」や「安定」、「確実性」を好む企業文化など、さまざまな要因が考えられます。ですが、技術の発展やクラウドに対するユーザーの知見、理解度が深まった今日、クラウド活用は本格化のフェーズを迎えています。先の経験を持つ企業も、改めてこれを検討すべき時期にさしかかっているのです。こうした時流を的確にとらえ、過去の経験にとらわれず IT 基盤のクラウド化を大きく進めつつあるのが、多彩な地図サービスを展開している株式会社ゼンリン (以下、ゼンリン) です。

株式会社ゼンリン

国内最大手の地図情報会社として、住宅地図やカーナビゲーション システム向け地図データ、GIS(Geographic Information System: 地理情報システム) などさまざまなプラットフォームのもとで地図情報に関連するコンテンツを提供するゼンリン。同社では2008 年より ADAS への取り組みをスタートしており、方面看板や道路標識、道路ペイントに至るまで、地図に関連するさまざまな情報を空間データ化した「時空間データベース」の構築を事業の根幹 とすることで、地図情報で未来を創造していくことを使命に掲げた活動を実践しています。

株式会社ゼンリン コーポレート本部 情報システム部 課長 柏原 和彦 氏は、時空間データベース、およびそれを整備するために必要な計測データ (レーザー計測で取得した点群データやカメラ画像、位置測位情報) は、相当の月日をかけて日本全国を網羅した、汗と努力の結晶だと説明します。

「当社では 1980 年代より電子地図やカーナビゲーション関連の事業をスタートしており、これを起点として地図データベースを築き上げてきました。近年は、新たな基盤データベースとして、時空間データベースの構築に注力しています。これは、全方位カメラを搭載した専用車両で日本各地を走行して、道路および周辺情報を記録した『計測データ』を はじめとする、さまざまな出典のデータをもとにして作成されるものです。地図情報で求められるものが何かと問われれば、精度と鮮度です。これらを担保するには、現実世界の変化に地図が絶えず追従していく必要があります。そのための計測データは、地図の整備に必要なだけではなく、時代の移り変わりを記録するトレーサビリティともなるのです」(柏原 氏)。

  • 時空間データベースの役割と、提供までの工程

高精度・高鮮度な地図情報の提供には、計測データを常に更新し、並行してそれを時空間データベースへ反映していくことが求められます。ゼンリンでは従来、オンプレミスの環境のもと、ブロック ストレージの冗長化や遠隔地へのバックアップなどを実施することで、万全な保護体制で運用してきました。しかし、オンプレミスの運用は、性能を確保できる一方、運用負荷、そしてコストの側面で大きな課題があったといいます。

専用車両で日本全国を巡るには、1回あたり何年もの月日がかかり、そのデータ総量は数ペタバイトに達します。スケールアウト型の NAS 製品を使用することで、絶えず増え続けるデータに対応することは可能でしょう。しかし、オンプレミスにバックアップ ストレージを設置した場合、そのコストは 2 倍に膨らみます。コスト削減に加え、巨大データの移行など管理に要する手間を削減して IT のアジリティを確保するうえでも、オンプレミスでアプローチできる範囲には限界があったのです。

システム概要と導入の経緯: サービスの信頼性に加え、人の手を介する「サポート」 の優位性も評価し、Azure を採用

ゼンリンでは過去、システムのクラウド化を検討したことがありました。しかし、当時はその実行にあたって慎重な判断を下さざるを得なかったといいます。その理由について、株式会社ゼンリン コーポレート本部情報システム部 久保田 耕平 氏は、次のように当時を振り返ります。

  • Map based on Dynamic Map Platform

「過去、当社では IT 基盤のクラウド化を検討したことがありました。しかし、『クラウド』という言葉が流行り始めたころ、当のクラウド事業者側のサービス内容や、セキュリティ、サポート体制は必ずしも十分とはいえませんでした。また、企業の外へ情報資産をおくことについて、誰しもが『漠然とした不安』を抱いていました。市場的にも、『まだ クラウドは様子見』 という空気がありました」(久保田 氏)。

こうした経緯がある中、ゼンリンでは 2015 年の末から、NAS 製品のリプレースを契機に、再度 IT 基盤のクラウド化を検討します。株式会社ゼンリン コーポレート本部 情報システム部 石橋 和忠 氏は、クラウド化を再度検討した理由として、次のように説明します。

「技術革新に伴いクラウドの信頼性とその理解は高まりつつありました。事実、NAS 製品のリプレースを検討した 2015 年、当社では情報系システムについてオンプレミスから Office 365 へ移行することも検討していました。この取り組みを機に、計測データのバックアップ サイトへのクラウド活用を再度検討することが、当社の IT 基盤全体の最適化にもつながり得ると考えたのです」(石橋 氏)。

クラウドに関する企業理解が既に深まりつつあったこともあり、同検討はゼンリンの社内にもスムーズに受け入れられたといいます。しかし、いくら過去と比べてクラウドに関するテクノロジーが進化したとはいえ、ペタバイト級のデータ容量に耐えるクラウド サービスは市場にそう多く存在しません。同社では容量面の要件を満たすこと、そして高い信頼性を備えることを条件とし、マイクロソフトが提供する Azure と、同じく米国に本社を構えるクラウドサービス 2 社のもとで比較検討を実施。その結果、Azure の採用を決定しました。

西日本と東日本、国内 2 拠点のデータセンターで冗長化が図られるAzure は、まずデータ保護の観点から大きな安心感があったといいます。また、日本の法律を準拠法として管轄裁判所が東京地方裁判所となっている点も、高い価値を持つ情報資産を預けるうえではきわめて有効だと判断されました。さらに、CS ゴールドマークの取得という高いセキュリティ水準を保持する点も、エンタープライズ用途として適していると同社は高く評価します。

こうした Azure 自体のサービスの優位性に加えて、「サポート」という人が介在する側面の強固さも、Azure を採用した大きなポイントだったと、柏原 氏は語ります。

「プラットフォームの比較検討を進める中で、マイクロソフトともう 1 社に対して、管理体制やセキュリティ、差分バックアップの自動化など技術的な質問を多く投げかけました。マイクロソフトとは要件定義の段階から協同して取り組み、定期的に各方面のスペシャリストと議論を重ねることができました。クラウド事業者に期待したことは、単なる場所貸しではなく、課題解決のパートナーとしての役割です。もう一方のサービスと比べ、マイクロソフトの組織力と前向きな姿勢、先進的な Azure のサービス群はたいへん優れており、当社のビジネス自体を支えてくれるという安心感があったのです。こうした『人』という側面の高い信頼感も、Azure を選定した大きな理由といえるでしょう」(柏原 氏)。

導入効果: 密な支援によってスムーズな移行を実現。 3 割を見通すコスト削減効果も生み出す

ゼンリンでは 2016 年初頭、これまで外部のデータセンターで運用してきたオンプレミスのバックアップ環境について、一部、Azure へ移行することを正式決定。2016 年 10 月より稼働を開始しました。

本社側で現在も稼働している NAS 製品は、製品間のデータ同期機能を備えています。しかし、バックアップ先にクラウドを利用する場合、この機能を利用することができません。ペタバイト級のデータ バックアップを実装するうえでは、まずその方法論から検討する必要がありました。実際に Azure 上の環境構築と移行作業を担当した石橋 氏は、このしくみを構築するうえで、マイクロソフトのサポートが大きく役立ったと語ります。

「本社で稼働するNAS データを短期間で Azure 上にバックアップする必要がありました。マイクロソフトにはプラットフォームの提供だけでなく、最適なバックアップ方法の実装についてもサポートいただくことができ、短期間でツール開発、移行作業を完了することができました。現在、億単位のファイル群の中から変更差分を抽出してそのデータだけを転送する、という一連の作業がツールによって自動化できています。パートナーであるマイクロソフトの支援のもとでツールの開発を進め、これを実現したことは、大いに評価すべきでしょう」(石橋 氏)。

こうして正式に稼働を開始した Azure は、既に大きな効果を生み出しているといいます。柏原 氏は、4 年間で約 3 割のコスト削減効果を見込んでいると、そこで見通す効果について笑顔で語ります。

"ハードウェアの調達や保守、データセンターのファシリティ コストなどから試算した結果、Azure への移行によって、今後 4 年間で 3 割ほどのコスト削減が果たせる見通しです。既に Azure 上では約 2 ペタバイトのデータをバックアップしています。この容量の大きさから、3 割で削減される金額が非常に大きなものだということがわかるでしょう。 また、遠隔地に設置したバックアップ ストレージの保守は、どうしても人の手を介した対応が必要でした。Azure であれば、保守という作業からは完全に解放されます。IT 部門の命題である『最適なコストと工数のもとでの安定したサービス稼働』に大きく近づくことができたと感じています"
- 柏原 和彦 氏: コーポレート本部 情報システム部 課長 株式会社ゼンリン

今後の展望: PaaS の有効活用も視野に、 IT 基盤の最適化へアプローチしていく

事業の根幹を担うシステムにクラウドを適用した今回の取り組みは、ゼンリンにおけるクラウド活用の可能性を大きく広げたといえます。今後同社では、クラウドの最適な活用方法を模索することで、柏原氏が触れた「最適なコストと工数のもとでの安定したサービス稼働」に向けた歩みを進めていきます。久保田 氏は、「Azure とあわせて、Office 365 の稼働も一部開始しました。 身近なツールを徐々にクラウド シフトすることで、クラウドに対する理解がいっそう深まると期待しています。しかしながら、システムの性質上『オンプレミスにあるべきシステム』も少なからず存在します。クラウドの領域を拡大しつつも、既存環境との両立を目指した『ハイブリッド クラウド』へのアプローチが考えられます。また、IaaS だけでなく PaaS の活用も視野に入れながら 、サービスの安定稼動と運用にかかるコスト、工数の最適化を図っていきます」と、今後の構想について語りました。

ゼンリンでは現在、地図情報が ADAS へ大きく寄与することを目指し、従来以上に高精度・高鮮度な時空間データベースの構築、およびそこへ向けた研究開発が進められています。計測データの重要度は、今後ますます高まっていくでしょう。この計測データのバックアップに Azure を利用することで、IT 基盤の最適化に向けた大きな前進を果たしたゼンリン。事業における重要度が高い領域でクラウドを適用した今回の取り組みは、今後、同社の IT の在り方を変えていくためのモデル ケースとなるに違いありません。

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