東京電力ホールディングスが1月に出資を明らかにした英Electronは、英国政府機関を顧客に持ち、2017年の世界経済フォーラム年次総会 (ダボス会議)においてテクノロジーパイオニア (Technology Pioneers)のトップ30に選出された。しかし、社員数がまだ20人に満たないベンチャー企業である。

同社は、ブロックチェーン技術を用いたエネルギー取引の分散型プラットフォームを手がけている。電気・ガス小売事業者の変更において、契約情報や検針値の引き継ぎを行う際にMOP (Electricity Meter Operator:メーター管理事業者)が小売業者の間を取り持つが、ブロックチェーンによってMOPを介さない直接的で迅速なやりとりを実現しようとしている。

Electronのようなベンチャー企業に資金が集まるのはブロックチェーンの将来性を示すものだが、ブロックチェーンが未来に向かうスピードは、ベンチャーに投資して将来の技術を育むという従来のステップに収まらなくなっている。ブロックチェーン分野で、シリコンバレーにおいて今最も頼りにされているコンサルタントをご存じだろうか。「Blockchain at Berkeley」である。正確にはコンサルタントではない。USバークレーの学生が2014年に設立したクラブ組織である。しかし、Qualcomm、Mercedes Benz、Airbusといった大企業がブロックチェーン技術の導入を検討し始めた際に、AccentureやMcKinseyといったコンサルティング大手に相談せず、まず最初にBlockchain at Berkeleyのドアを叩いた。

理由は明快だ。451 Researchの調査によると、大企業の28%がブロックチェーンの採用に関心を持っているものの、実際に着手しているのはわずか3%にとどまる。技術としてブロックチェーンの仕組みを理解していても、経験に基づいた応用のアイディア、予測されるリスク、変革の可能性といった具体的なことを判断するための材料がまだ少なく、そのため足を踏み出せずにいる。そうした実践的な経験とデータを最も持っているのが学生や研究者なのだ。企業だけではない。暗号通貨の規制について検討するSEC (米証券取引委員会)が昨年、Blockchain at Berkeleyが主催するカンファレンスに参加した。開発者やテクノロジスト、投資家、事業家などとの繋がりを築くのに、今はBlockchain at Berkeleyのコミュニティから広めていくのが最も効果的と判断したためだ。

  • 大学のコースが不足、しかしブロックチェーンの可能性が急速に開花し始めていたため、学生がブロックチェーン技術を教え合えるように組織された「Blockchain at Berkeley」

ブロックチェーンは仮想通貨のような形で大きく動き始めているものの、学生や研究者による研究グループが頼りにされるほどまだ知識や情報の共有が広がっていない。

大学レベルのブロックチェーンのプログラムは、2014年にニューヨーク大学 (NYU)で、ビジネス法を専門とするDavid Yermack教授が単位として認められるコースを提供し始めて話題になった。まだ、数年目を迎えた段階であり、それゆえにどこのプログラムも人気である。NYUの講義はすぐに180人分の座席がある最も大きな講義室が行われるようになったが、それでも受講希望者の方が多く、現在は「遅れて来たら立ち見」を条件に225人の登録を認めている。UCバークレーのコースは規模を抑えており、登録できる人数をはるかに超える希望者が空き待ちリストに並ぶ。プリンストン大学のArvind Narayanan教授のコースはオンラインラーニングサービスCourseraで提供され、全体のトップ5に入る人気講義になっている。

ビジネス法に対して、コンピュータ科学部ではブロックチェーンの実用に必要な技術が掘り下げられている。たとえば、仮想通貨のウオレットや取引データの安全を確保するクリプトグラフィなどセキュリティである。1月末にスタンフォード大学のサイバーイニシアチブがブロックチェーン技術のカンファレンスを開催したが、そのタイトルは「Blockchain Protocol Analysis and Security Engineering 2018」だった。

日本における仮想通貨「NEM」の大規模不正流出など、仮想通貨をめぐるネガティブな事件が続き、仮想通貨の仕組みや技術を不審に思う声が広がり始めている。仮想通貨はブロックチェーンの可能性を広めるのに貢献したが、一方で通貨というより金 (ゴールド)のような投機の対象として肥大化してしまった。それも成長の1つと言えるだろうが、投機目的の売買で乱高下している仮想通貨相場はブロックチェーンの可能性を示すものではない。

もし本当にブロックチェーン技術の可能性に投資するなら、その技術を本当に役立つものにしようとしている企業に投資したり、または自身に投資してこれからの技術を身に付けるべきである。コンピュータ科学専門で、カーネギーメロン大学においてブロックチェーンと暗号通貨の応用に関するコースを開始したNicolas Christin教授は次のように述べている。

「明日にもビットコインは2ドルに下落するかもしれない。それでも技術的な見地から"とてもクールなもの"という私の意見に変わりはない」